忙しいあなたこそSUPレースをするべきだ

長文、駄文につきお時間ある方だけどうぞ。

僕は大学を卒業して、ウインドサーフィンのインストラクターの道に進んだ。

ウインドサーフィンはヨットとサーフィンを合体させて出来た乗り物で、
1960年代の後半に開発され、世界へ普及していった。
最初は12ftくらいのロングボードから始まって、
進化を経て、ウインドサーフィンの機動力は格段に飛躍していった。
現在の世界のトッププロ選手は
10mの高さの波に乗り、
時速100kmのスピードで海面を走り、
10mを超える高さのジャンプをする。

実際、逗子海岸にも真冬に大西と呼ばれる強い西風が吹くことがある。
強烈な西風は海面を大きく揺らし、大きなうねりをつくり、
その大きなうねりはビーチに近づくにつれ、高く盛り上がり波となってブレイクしていく。
台風のうねりと違うのは遠くから運ばれたものではなく、次から次へと連なってくる点だ。
「大しけ」と天気予報だったら言うだろう。続いて「海には近づかないように」と。
だけど、ウインドサーフィンのエキスパートはそんな日を心待ちにしている。
その日が来ると、待ってましたと喜んで海へ出ていく。
決して無謀なチャレンジではなくて、
それほどにウインドサーフィンの機動力が、荒れた海の中でも素晴らしいということをお伝えしたい。
漁師さんすら出ていかない海でも遊び場に変えることが出来る、
そんな日にウインドサーフィンをしていた時に、
「なんて自由なんだ!」と感動したことを覚えている。

ただ、デメリットもある。
それは全てはコンディション次第ということだ。
初心者には、弱い風とフラットな海面が必要で、
中級者にはもう少し強い風、上級者はさらに強い風を好み、
エキスパートは強い風に加えて波もあると好ましい。

もちろん、自分に都合の良いコンディションなどほとんどない。
大抵の場合は風が強すぎて全く乗れなかったり、
弱くて物足りなかったりだ。
もっと酷いのは無風。
強風で100kmものスピードを出せる選手でも、風が無ければ全く動けなくなってしまう。
無風の前では、みんな無力なのだ。

こうなってくるとコンディションに合わせて場所を変えるのが望ましいが、
スクールは固定の店舗を持っていることが多く、
その日によって場所を変えるというのは難しいのが現状だった。

ウインドサーフィンのインストラクターをしていて
ほどなくしてSUPに出会った。
日本に入って来たばかりのマリンスポーツで
逗子でやっている人はまだ皆無だった。

初めてSUPをした日のことは覚えていない。
印象にも残っていない。
面白かった記憶もない。
もちろん流行るなんてこれっぽちも思わなかった。
これは僕が海の上に立つとことへ新鮮さを感じなかったからだと思う。

それでもウインドサーフィンの弱点である「無風」時の代替品としてスクールでは重宝した。
もちろんお客さまはウインドサーフィンをしたいのだが、
無風で動かないウインドサーフィンよりはSUPを好んだ。

この当時の僕のSUPの興味は波乗りにだけはあった。
小さい波でも楽しくて、乗れる本数もレギュラーサーフィンよりも多かったからだ。
ただ、ゆったりとクルージングしたり、ガッツリ漕ぐことは全く意識の外だった。

そのまま月日は流れて、
SUPを始めてから10年近くの月日が流れた。
相変わらず波乗りにしか興味がない僕の考えが大きく変わった出来事が起こった。

2015年にSUPレースの世界大会が逗子海岸で開催されたのだ。
僕はもちろん観戦する側だったのだが、そこで初めてSUPレースというものを見た。
しかもいきなり世界のトップ選手たちのレースをだ。

イントラ仲間が、そのレースには出ていたのだけれど、
レースに向けてそれなりに練習していて、当時の僕なんかよりは全然速かった。
だから僕もその同僚も「良いとこいけんじゃない?」みたいな話をしていたのだが、
果たして無知とは恐ろしい物だった…
世界のトップ選手は圧倒的にレベルが違った。

そこから僕のSUPレースが始まった。
最初は無風の時だけの遊び道具だったSUPが、
SUPレースを始めて、レベルが上がるに従って、風が吹いても、波があっても、もちろん何もなくても、
楽しめるフィールドがどんどん広がっていった。
無風の湖のようなフラットから、台風のうねりが入った沖の海面まで
どんなコンディションでも楽しめるようになってきた。

SUPレースは一見、漕ぐという単調な作業の繰り返しなのだが、
単調な中にもいろいろなテクニックがあって、全然飽きることがない。
そしてそれを身につけるには、反復練習しかない。

サーフィンやウインドサーフィンはコンディションの再現が難しく、
昨日出来たことが、今日出来なくなるといったことがざらにある。
それどころか、波がずーっと無くてそもそも練習できない日もある。
ウインドも風も弱い日が続いていたら強風時の練習は出来ないのだ。
予定に関してもそうで、
明日の午後に波があるとか風があるとなったら、
友だちや彼女との予定を後回しにしてでも海を優先してしまうこともあった。

だけど、SUPにはそれがほとんど無くて、
(もちろん例外的に台風直撃や雷、あまりの強風などはあるが…)
風があろうとなかろうと自分が思った時に、思った場所で練習が出来る。
しかも練習時間も1時間しっかり漕げば十分満足できる。
自分の時間を有効にコントロールすることが出来る。
これって自然相手のスポーツの中では、かなりスゴイことだと思う。

体形もかなり変わった。
ウインドサーフィンはどちらかと言うと無酸素運動に近くて、
筋肉は付くけれど、僕にはダイエット効果は無かった。
中年太りと相まって体は大きくなる一方だった。
それがSUPのレースを始めてからは、全身にバランス良く筋肉が付き、それでいて体重は減った。
持久力も上がり、漕ぐと頭の中がスッキリして気持ちはポジティブになった。

もしあなたが圧倒的なスピード感やアドレナリンを求めるのであれば、
ウインドサーフィンやサーフィンをおすすめする。

だけど仕事が忙しい、休みの日に家族との時間も大切にしたい、
マリンスポーツはやりたい、健康的な身体になりたい、頭の中をスッキリさせたい、
そう思うのであれば、SUP(レース)をするべきだ。